平成15年度社会実験申請書から
1.実験名称  道路空間のコミュニティインフラ化 in 博多

2.地域の現状と課題

概 要
 かつての都市は職住一体もしくは職住近接で、商業やコミュニティも十分に機能する効率的な社会構造(コンパクトシティ)であった。車社会の到来でその効率は一層高まるはずであったが、残念ながら、いまだ人の営みと車と都市の共生関係をつくるに至っていない。逆に、行き過ぎた車優先社会は、今日の商業集積地や住宅街の道路と交通の問題や、古くからの都心部の空洞化をもを生んだ原因の一つにもなっている。
 福岡都心部は、かつて福岡部と博多部の双子都市として栄えてきたが、戦後の福岡市全体の発展と福岡部のミニ東京化の陰に、博多部の空洞化が進んでいった。約1キロ四方の博多部は、戦災復興による道路整備や区画整理が成されてきたにもかかわらず、定住者と商業の流出が生じ、いわゆるワンルームマンションばかり増える中、高齢化と少子化は福岡市で一番となっている(昭和60年を境にして老年人口が年少人口を上回った)。いかにして定住者やファミリー層を戻すか、いかにして商業や賑わいを取り戻すか、自治都市博多・商都市博多の個性復活は博多部まちづくりの根本的な課題となっている。博多部の現状やその背景および課題を、以下にもう少し述べる。

住環境
 幹線道路が集中する福岡市都心部にあって、戦後の車優先の都市計画は、博多を体現してきた博多部のコミュニティを分断・消滅させてきた。そして、都心部の居住環境づくりを置き去りにした郊外誘導の住宅計画は、博多部定住者の流出を加速させてきた。昭和30年の博多部人口は42,000人であったが現在15,000人まで減り、ついに平成10年には博多部に四つあった小学校が一つに統廃合された(博多部全体の児童数は、昭和31年の4,916人をピークに平成12年は457人)。

商環境
 戦後の都心部の面的膨張は都心部の懐を広げるという理由で、博多駅や魚市場や問屋街等々、博多部に根ざした商業や経済拠点を流出させてきた。博多商人も福岡部の天神地区や新博多駅に店を移し、地域密着商店も拠点施設や定住者の流出により閉店が続いている。そして、一定の道路整備や区画整理が成されたにもかかわらず、新しい商業が博多部に張り付く気配はなく、再開発による巨大商業施設(博多リバレイン・ベイサイドプレイス)も苦戦している。

道空間
 美観・安全性・快適性・利便性などを損ない、道路という寂しい公共空間の現状がある。駐車場・車庫・シャッター・フェンスの街並み、歩道を横切る車、歩行者と自転車の交錯、歩道を狭める設置物や駐輪された自転車やバイク、事務所ビルなどの建物1階の閉鎖性、歩道と建物の際空間、傾斜のある歩道、歩道と車道の段差、ちょっとの駐車もできない車道など日常の生活の中で見えてくる課題は多い。
 一方、道路を利用する路線バスは、都心部を巡回する100円バスにより利便性が高まった。しかし、100円バスの路線延長や、100円バス停からの細やかなアクセス方法を求める声がある。バスやバス停の装飾性と付加価値などを拒む規制を解決し、逆にインセンティブを与えて回遊性アップへの貢献が望まれている。博多部内の準幹線道路の交通量は福岡部に比べれば少なく、道路空間のまちづくりへの積極的な関わりや新しい役割を模索するチャンスでもある。

自 治(まちづくり)
 道路行政の分かりにくさや各種の規制や許可などは、道路空間と人々の関係を縁遠いものにし、結果的に、地域の人々が道文化を育めず、自由闊達に暮らし商うことを難しくしている。大きくは官と民の関係や地域自治を形骸化させ、個人と社会の関係にリアリティを失わせつつある。
 このような現状にあって、本来一つの歴史・伝統・文化を共有する博多部自治は混乱している。これには大きく四つの要因がある。一つは、四つの旧小学校単位にそれぞれ自治連合会がある事。二つ目は、自治連合会とは別に、760年の歴史を持つ博多祇園山笠の七つの「流(ながれ)」という自治組織がある事。三つ目は、自治連合会と流自治の中で、町名町界改正による新旧混在がある事。四つ目は、定住者激減による自治力の低下である。社会改革で指摘されている縦割りの弊害と協働の必要性と同様に、地域の一体的なまちづくりが行えるよう考えなければいけない。根底には、地方自治体と地域自治連合会の曖昧な位置づけがある。
 自治都市・商都市・国際都市・双子都市などと形容されてきた日本最古の都市「博多」を日本最新の個性ある都市にリニューアルすることは、地域間の切磋琢磨関係づくりや全国のインナーシティ問題解決の一助となるものと考えている。まちづくりが形骸化しないよう、縛られている現実(法律や各種制度や社会システム)の改善も不可欠である。

 以上のような地域の現状や課題の中、「公共」という道路空間に協働+まちづくりの視点を当て、道路空間づくりをまちづくりと一体的もしくは先導的に行うことは、新しい取り組みとして効果が期待できる。すでになされている道路整備や区画整理や各種施設などの博多部インフラや、博多部まちづくり協議会でネイミングされた「博多回廊」を活かし、住環境づくりや商環境づくりを見据えたまちづくり求められている。

3.実験を行う施策の目的・概要

■改善目標

 既存インフラである道路・公共交通機関・地域の宝などの、リニューアル・ネットワークを図り、地域との新しい関係づくりを進める中で、危ない道路・不便な道路・不自由な道路・汚い町並み・寂しい町並みなどを改善し、「歩行者を中心とした、高密な都心居住と商業機能の混在による、歴史的な資産とともに下町の形成」を目指す。
 そのために、両側町の再生を意図した「道路空間のコミュニティインフラ化」でもって、「個々の敷地、近隣を媒介する装置として道路空間を歩行者中心に組替えること」を社会実験で行う。人々の意識改革や都心部の活力と魅力再生を図り、定住者減少・商業流出・自治力の低下を改善する。
 実験をし?人を変え?法律を変え?道を変え?町を変え?都心部を変える。


■施策の狙い

1.まちづくりの展開を道路空間づくりから(最大の物理的インフラ活用)
・都心の魅力再生とコミュニティが育まれる居住機能再生(都心居住・博多部振興プラン)のための具体的なまちづくりの展開を、最大の物理的インフラである道路空間を組み替えることからはじめる。
・一方通行・一車線化による道路空間の組み替えやコミュニティバス停、レンタサイクル、博多マップ、千灯明の継承と展開で始まった新しい時祭り「博多灯明ウォッチング」など、道路空間を活用したハード・ソフトの取り組みを総合的に展開する。
・実験後に実験評価ワークショップを行い、住商混在の博多部全体への展開を見据え、総合的な検証を行う。

2.住商混在の都心部における道と町の新しい関係づくり(全国共通の都心部問題)
・住商混在のまちにおける道と町の新しい関係づくりを目指す。
・博多部四地区を繋ぐ約2キロの既存道路(博多回廊)の一辺を一方通行・一車線にすることにより、駐車・駐輪スペース、サイクルレーン、歩道コミュニティ空間などの空間創出を行い、生産活動のための単なる移動空間としての道ではなく、生活・商売を含めた地域コミュニティのための道路空間利用を具体化する。

3.福博双子都市の再構築(博多の個性づくり)
・バス停や地下鉄駅、市営駐車場などとレンタサイクル基地(博多リバレイン)との連携を図り、博多回廊や地域内各種施設とのネットワークを構築する。また、バリアフリーマップやサイクルマップを作る事により、アクセス性や回遊性の改善を図る。 ※福博=「福岡部」「博多部」の略称

4. パブリックとコミュニティの新しい関係づくり(仮設的生活文化の表出)
・福岡に代表される屋台など道路空間における仮設的なものによる生活文化の表出は、町の魅力や個性、さらに安心感や居心地のよさを生みだしている。そのような空間の創造のためには、道路空間の地域での管理・ルール化などパブリックとコミュニティの新しい関係づくりを行い、人が住みたくなり、商店が張り付きたくなるような、魅力ある道路空間づくりを目指す。
・その動機付けとして生活文化を道路や公園に表出すべく、歩行者天国交流イベント、オープンカフェ、庇の延長、バンコ設置、バス停のアート化、便所貸出表示、花いっぱいの活動などを展開する。また、民有地道路際の空き空間での街角オープンカフェなど、民有地に公共性を取り込み、社会性アップを図る。
・一方通行や歩行者天国などの道路管理を地域で行うなど、管理から自治への展開を図る。

5.博多部四地区の切磋琢磨関係づくり(競争によるコミュニティの活性化)
・地域の特性をより引き出すために、博多部四地区別にワークショップを開催する。
・実験実施にあたっては、博多部内四自治連合会の協働体制を誘導するため、企画や運営における四地区間の切磋琢磨関係をつくり、地域自治の自立した運営への取っかかりとする。
・定性調査などで、道路上のハードや管理運営などにおける人々の意識変化を検証する。

6.まとめ
・居住者、来訪者、バス利用者などを対象に、回遊性・利便性・安全性・快適性・ 
 交流・滞留・バリアフリーなどを検証する。

トップ 戻る

実験概要 実験全体図