■ 市民と行政による協働のまちづくり ■

1994.11.5
九州大学教授 今里滋

● 行政のマジック・ワード=公共性 ●

 今日は市民と行政の協働作業によるまちづくりということでお話しをします。良
く「住民によるまちづくり」ということが言われますが、しかし、住民だけではまち
づくりには限界があります。福岡市、福岡県、あるいは九州地方建設局などは、
特にまちづくりにとって関係が深い役所ですが、こうした行政の役割、行政の力
は、まちづくりにとっては大変重要です。また、公務員の、集団としての力、仕事
柄の役割や権限、または仕事を離れた場所での、市民としての役割も非常に重
要です。
 今からお見せするビデオは、「山笠とまちづくり」と題して、私がテレビでつくっ
てもらったものです。また、福岡市長(講演時は候補)が博多部まちづくりに関し
て語ってくれましたので、約20分間のインタビューをご覧ください。博多部のまち
づくりをご存じない方にとっては導入部分として、私の眼から見て博多部のまち
づくりがどのような問題を抱えているか、また、博多部の問題を福岡市の市長が
どのように考えているか、ということを知るために役に立つと思います。

  ※最初に、FBS「ないとシャッフル」の番組から、今里教授の山笠参加
  リポートの模様が上映される。750年余りの伝統を誇る博多祇園山笠の
  風物を交えつつ、昔ながらの狭い町並みの中で緊密なコミュニケーション
  を成立させ、祭りの主体となってきた地域コミュニティが危機に瀕してい
  る現状が訴えられる。桑原恵一福岡市長(候補)との対談では、山笠に
  対する市長自身の思いや市との関わりから、山笠を支える地域コミュニ
  ティの再生・活性化へと話題は発展する。福岡と別個のもう一つの町「博
  多部」の重要性を両者が再認識するとともに、今里教授によって、総合的
  な視点から博多部と新定住構想をサポートする「博多部局」の創設が提
  案される。最後に、大学と行政の両方が縦割りを廃して積極的にまちづく
  りに取り組むことを約して、対談は締めくくられる。

 このビデオを見て、行政の考えもわかったと思います。桑原候補も市長に再選
されたら、この言葉を忘れずに頑張ってほしいですね。

○住民と「公共性」との闘い
 さて、これから行政と市民のまちづくりについて、少し学問的な話しをしたいとも
います。行政の世界では「公共性」という言葉が、あたかも「開け、胡麻」の呪文
のよう→
























な、開かずの扉を開くマジック・ワードとなります。行政とは公共事務の実施及
び管理ですから、行政がさまざまな事業を行う祭にはその事業が「公共性」を有
することが必要となります。そこで「公共性」とは一体何であるのか考えてみまし
ょう。都市再開発法に基づき地方公共団体を実施主体とする第一種市街地再開
発事業を例にとります。
 福岡市による主たる再開発事業は、西新、渡辺通り、千代町の三つ、高宮も
入れると四つあります。この内、西新と千代町では地権者住民が福岡市を相手
に裁判になり、事業の公共性が問われました。住民が行政訴訟を起こすのは、
時間・コスト・労力の上で大変なことですが、それでもあえて訴訟に踏み切って
まで、再開発事業の公共性を問うたわけです。
 成田空港や長良川河口大堰の例に見られるように、行政は公共性を前面に
押し立てて事業を進めます。田畑が足りないからということで始まった諫早湾の
干拓も、ウルグアイ・ラウンドなどとの関係で必要性はいまや疑問視されている
にもかかわらず、農水省は目的を変更してでも事業を続行しています。また、こ
の干拓地の堤防は、道路として利用すれば、ドライバーにとって大変便利になる
のですが、建設省との関係で自動車は通さないことになっています。これは縦
割り行政の一例といえるでしょう。
 行政の事業に関しては、基本的に公共性は推定されることになっています。
再開発事業でも同じです。地域住民の反対があっても、あれよあれよという間に
計画が通ってしまいます。計画書の縦覧期間はありますが、短期間で異議申し
立てもできなくなってしまいます。行政の決定・・・行政法の用語ではしばしば
「行政処分」と呼ばれますが・・・には「公定力」といって、一定期間の間に異議
の申し立てがされなければ、それは確定した変更のきかない最終的な決定とし
て住民が従わねばならない効力があるとされます。これでは公定力が公共性を
形成するということになってしまいます。私人同士の場合、民法の事項のように
訴え可能な期間は10年間あるいは5年間なのに、行政に対する場合は、公的
な法律関係の安定を優先させるということで、一般にはわずか60日しか認めら
れていません。
 事業がある公共目的のために行われるとき、その目的、あるいは実質的な公
共性とは、個人や住民の生活が実際により良くなるということです。しかし、そう
なるという確実な保証はありません。いくらシンクタンクや行政の優秀な人材が
いろいろと考えても、人間の能力には限界があります。なのに行政のやることに
は間違いが無いと考える傾向が、日本人にはあるのではないでしょうか?これ
を「行政の無謬性の推定」といいます。最近では、国家のやることにも間違いが
あるという認識も出てきましたが、特に旧い世代の人たちには「お上」に対する
信頼が強いようです。
 しかし、血液製剤によるエイズ感染の例にも見られるように、国家賠償が必要
となるような事件もときには起こります。このように公共性の内容については分
からない、実質的な公共性は信用できないという場合もまま生じます。そこで最
近では、↓

行政にも誤りがあることを認めた上で、手続き的な公共性を問う、つまり、手続を
経ることによって公共性を推定しようという動きが出てきました。
 まちづくりの場合でも、例えば道路の幅員を変更するのは都市計画決定によっ
てやります。福岡市東区箱崎については、昭和23年の都市計画決定によって
道路の幅員を三倍に広げることが決められ、それが今日に至るまで箱崎の都市
計画を縛っています。それから建物の階数が制限されたり、道路から少し建物を
後退させて建てること(セットバック)が決まっていて、そのために土地が売れな
い、一定の建築物を建てられないという事も起こります。市民の財産権をいわば
縛るという大変なことが、手続によって正当化されるわけです。
 これは県民が選んだ知事が行います。しかし、この場合に決定を下す知事と
は、国の役人としての知事です。なぜならこの仕事は機関委任事務だからで
す。県の事務の7割から8割は国の事務で、しかも機関委任事務については
我々自身が選んだ知事は国の機関として扱われます。地方自治法改正以前
は、国から命令された事務をやらない知事を国が裁判を経た上でやめさせること
ができるという規定すらありました。
 都市計画法の手続を見ると、決定された都市計画については利害関係人は2
週間以内に縦覧し、意見があれば意見書を提出することになっています。但し、
意見書は見ますが、行政がその通りに従うとは限らないのが都市計画法上の手
続です。この手続を経たという事実が確定されることで、正当化(公共性の付与)
がなされます。中には、申請書の不備な点については本人を呼び出して意見を
聞き、間違いを教えてあげるという「聴聞手続」を必要とする、個人タクシーの営
業免許の場合のように、懇切丁寧な手続きを要するものもあります。しかし都市
計画決定の場合には手続が一方的に過ぎるのが問題です。
 今年(1994年)10月にできた行政手続法は市民にとっては強力な味方とな
りえるでしょうが、一方では、手続によって公共性を推定する手続が万全であれ
ばよかろうとする時代を推進することにもなるでしょう。

○西新と千代町の再開発
 西新も千代町も、都市開発の規定上は、手続き的な問題はありませんでした。
それでも訴訟が起こったのは、実質的公共性の問題です。西新4丁目の94名
中15名が再開発に反対したました。葬儀屋さんや家具屋さんのように、再開発
後のキーテナントの中では商売がしにくくなる人たちや、再開発によって高くなっ
た家賃を支払えず、出て行くことを余儀なくされる零細業者の人たちがいたから
です。
 都市再開発法の規定上は、こういう人たちは補償をもらって立ち退くことになっ
ています。しかし、西新の場合は住居と仕事場が一緒になっているケースが多
く、土地を出て行くことになれば、この人たちの社会生活・経済生活は極めて大
きな影響を受けることになります。また、地域のコミュニティも崩壊するかもしれま
せん。 →
























 都市再開発方の場合でも、土地区画整理事業でも、あるいは交通事故でも、
補償とは金銭補償に限られています。しかし、その人たちの人生が公共事業に
よって影響されるのであれば、ライフに対する補償をもっと考えたほうが良いと思
います。山根一慎さんが『週間ポスト』という雑誌に連載している「メタルカラーの
時代」の中に、青森県の八戸に石油備蓄基地をつくった人の話しがありました。
指定の将来を案じて漁業権補償の交渉に応じない漁村の人々の意を組んで、
その会社と運輸省は、八戸の近くに学校や学生寮をつくり、漁村の子ども達を受
け入れ、仙台と東京の大学にも行けるようにしたそうです。話を額面どおり受け
取ることはできないかもしれませんが、これがつまりライフの補償ということで
す。
 これからは人生の補償まで考えないと、実質的な公共性の部分で納得がいか
ないということになるでしょう。

○下川端の再開発
 下川端の再開発の場合も、千代町や西新のように訴訟となる危険はありまし
た。金銭補償をもらえば別の場所にもっと広い土地を買って、ゆったりと暮らすこ
ともできたでしょう。しかし、千代町や西新の二の舞はいけない、これまで築き上
げてきた人生を犠牲にしないということで、住宅を店舗の上に乗せる、今のかた
ちに決まったのです。
 ここまでの話をまとめておきましょう。現在の行政は手続優先となっています。
成田空港などの教訓もあって、手続が非常に丁寧になされる一方、実質的な公
共性がおざなりにされていることがあります。人間の予測能力には限界はあるも
のの、やはり何らかの形で実質的な公共性が納得いく形で守られねばならない
ということです。

● 日本のまちづくり制度の問題点 ●

○どこが問題か・・・高権的都市計画制度
 それでは次に、日本のまちづくり制度の問題点についてお話したいと思いま
す。
 行政は都市計画法という法律を通じてまちづくりにかかわっています。私達の
まちづくりにも影響を及ぼすこの制度の問題点は四つ挙げることができます。

1.都市計画法による権利の制限の仕方が全国一律である点。
 特に都市計画法と建築基準法が画一的で、規模も性格もちがう地域が同じよ
うに規制されています。アメリカのゾーニングという規制方法も画一的といわれて
いますが、少なくとも日本とはちがって都市ごとに定められています。
 それから地価にも敏感に反映してくる用途地域の問題があります。中でも、ほ
とんどなんでも建ててよいことになっている準工業地域というものがあり、きちん
とした都市計画をしたい立場にとっては憎まれっ子になっています。 ↓

 また、今の都市計画法の中で博多の特色を出すには、特別用途地域という制
度があります。これは自治体で決めていいのですが、用途は都市計画に定めら
れた用途に限られ、建蔽率や容積率の規制を自治体独自にできないようになっ
ています。かといって、産業廃棄物処理場の建設を禁じた宗像市のように、条例
で規制をしようとしても、法律に抵触してしまい、裁判で争われた場合には大体
において負けてしまいます。

2.都市計画法に基づく都市計画決定を出す事務が機関委任事務になっている

 機関委任事務は国の事務ですから、国との事前協議を経なければなりませ
ん。朝早く飛行機に乗ると、図面を抱えて霞ヶ関の建設省に折衝に行く人たちに
出会います。都市計画決定を下す事務が機関委任事務になっているから、こうい
う光景が見られるわけです。こうしたことが個性的なまちづくりを阻害し、全国画
一的な町をつくり出しています。

3.住民参加の機会が限られている点
 都市計画の策定に当って意見書を出せるのは、関係地権者のみに限られてい
ます。また、都市計画審議会というものがあり、住民代表の議員や市長も参加し
ますが、実質的な審議は事実上困難です。ただし1992年の都市計画法改正に
より、市町村がマスタープランをつくること、その際に住民からの意見を聴くことが
定められた点では前進がありました。

4.異議申し立ての機会がほとんど無い点
 国民の生活に影響を与える行政上の決定=処分を取り消すのが取消訴訟で
す。行政事件訴訟法の規定では、法律によって守られるべき利益=法律上の利
益がある人以外は「原告適格」といって、裁判をする資格がありません。都市計
画決定が行政処分かどうかについては争いがあり、単なる青写真に過ぎないと
いう説と、処分だという説があります。実際に権利の制限をしているなら明らかに
処分だと私は思っていますが、行政は青写真だと主張しますし、福岡地裁も訴え
を認めたがらない傾向にあるようです。

 以上四つをまとめると、日本の都市計画は大体において国による統制の強い
都市計画だということができます。高権的都市計画といいますが、私人の所有権
には高低の差が無いのに対して、行政の権利は一段高く、そこから一方的に決
めるということです。合意によって下からつくっていく「公」の計画ではなくて、
「官」の計画になっているのが問題です。行政の無謬性のフィクションに乗っかっ
ていて、民間の主張が計画策定課程に反映されていません。もっとも、実際の都
市計画の実務は必ずしも →
























トップ・ダウン方式ではありません。外見上はそうであっても、大学の研究室など
を使っての意向調査や相談、水面下の協議、政治的経路や地元の有力者を通
じた交渉、私的な諮問機関を通じて合意の形成をし、オーソライズ(正当化)する
のが一般的です。これは行政の努力として評価すべきですが、外側から見ると
不透明です。都市計画によって都市の利用の形態が決まりますが、その際には
建築規制、建築基準法に照らした正当化が行われます。この段階において建築
基準法のシステムで決めていくときに、行政裁量の余地がありません。そこで
官・民の非公式の協議をどれだけやれるかということです。

○改革の方向
 そこで改革の方向ですが、ここでも四つ挙げたいと思います。

1.都市計画における地方分権の推進
 1994年6月の地方自治法の改正で中核市と広域連合という新しい制度も出
てきましたが、都道府県、市町村の枠組みはそのままにしておくほうが望ましい
と、私は考えています。地方分権で欲しい権限は、都市計画法、建築基準法、
農地法など、土地に関する法律にかかわるものです。この項目をさらに三つに分
けると、まず、計画策定の主体を地方自治体にうつし、必要な財源と権限を与え
ること。次に、行政手続法ができたのを受けて、各自治体で行政手続き条例をつ
くり、都市開発申請の受理から決定までのプロセスを透明化すること。最後に、
住民参加を保障し、とくに住民協議会の評価をすることです。

2.自治体による開発許可制度・建築許可制度
 現在は建築基準法に基づく建築確認しかできないが、地域の実情に合わせた
チェックができるようにする必要があります。自治体のつくる計画が市民の合意を
得ていることを前提に、建蔽率・容積率とあわせて建築確認の権限を自治体が
持たねばならないと思います。

3.都市マスタープランの充実
 1992年の都市計画法改正によって都市マスタープランの導入が決まりました
が、抽象的なものでは無意味です。経済的・社会的側面に考慮してつくられ、具
体的に都市計画に役立つものでなければなりません。

4.用途地域の制度と運用
 博多的な、地域の個性と特殊な条件に応じた用途地域の策定と運用が認めら
れるようになる必要があります。 ↓
ちょっと休憩。今里先生には、早くから博多部まちづくりには応援団の旗を振っていただき、特に「博多部まちづくり憲章」作成・制定では大変ご尽力いただきました。
○まちづくりと地方分権
 まちづくりと地方分権といいましたが、つまり、土地に関する法律の権限を自治
体におろすということです。これによって個性的なまちづくりが可能になります。た
だ、一方では地方分権の影の部分があります。それから、日本人には集権シス
テムがあっているのかもしれないという気も、私は少ししているのです。ご存知の
様に、江戸時代には各藩で地方の活性化が行われていました。ところが、明治
維新以後の120年間の集権化の結果、日本人は集権化システムに適した体質
になってしまったのではという懸念もあります。こうした考え方は悲観的に過ぎる
のかもしれませんが。
 地方分権によって地方自治体に権限が移れば、それだけに地方に責任も生じ
てきます。今までのように国や県のせいにはできなくなります。利権の絡む用途
地域指定の問題にしてもそうです。今までは国や都道府県のレベルにとどまって
いた政治腐敗がすぐ身近にまちづくりで降りてくる可能性もあります。これまで以
上に行政の監視や統制の必要性が出てきます。
 それとともに私が懸念しているのは地方議会の総与党化の進行です。議員が
行政に対して影響力を持ちたいと思えば、首長ににらまれるようなこと、ひいては
行政の局長や部長ににらまれるようなことはできません。したがって、首長が有
能であればあるほど議会は監視ができないという問題が、どこでも起こっていま
す。こういう状況では、地方分権が有能な首長をますます強くすることになるの
で、躊躇もあります。

● 住民と行政のパートナーシップ ●

 アメリカを発端に、1969年ごろから住民参加が主張されるようになりました。ケ
ネディのあとに大統領に就任し、マイノリティの保護の推進など、内政に力を注い
だジョンソンは、都市再開発にも熱心でした。彼は住民主体のまちづくりをすると
いうことで、弁護士のコンサルタントを派遣し、住民の代わりに行政側と交渉させ
るという手法を取りました。これをadvocate plenningといいます。これを契機にア
メリカの住民参加が進み、住民による協議会方式のまちづくりが発展しました。
イタリアにも同じようなものがありますし、日本では神戸市が最初にこの制度を取
り入れました。アーンシュタインという人によれば、住民参加には八つの段階が
あるそうです。最初は住民が世論操作をされて利用されている状態、次に有力
者が協力者に適当な情報を与えて住民を分断する状態、それからパートナーシ
ップと進んで、住民にある程度任せる段階、全部任せる段階となります。→
























 これを日本に当てはめると以下のようになります。これを新聞で報道された具
体的な事例に即して紹介しておきます。(事例は記事データベースで検索したも
のですが、検索結果を保存したファイルがハードディスクの中に見当たらない・・・
どうも消去してしまったようです・・・ので、出店記事の日付や媒体名を表示でき
ません。あしからずご了承ください。)

○アドバイザー派遣型
 群馬県は、まちづくりや建築物の景観形成に関して、専門的な立場から助言を
するアドバイザー制度を発足させた。
 景観アドバイザーになった六人は、建築、緑化、景観、証明デザイン、建築意
匠、都市計画、地方計画の各分野の専門家。アドバイザーが助言するのは、建
築協定やまちづくり協定を作るときや、景観に配慮した事業をするときなど。都市
計画課は「自治会や商店街などまとまった住民組織や市町村、県林務部や農
政部の各課からの相談も受けたい」と話している。
 10月4日の会議では、(1)相談は県都市計画課を通して受け、内容に応じて分
担する、(2)行政の立場としてではなく、個人として助言する、(3)市町村が派遣
を申請した場合を除き、調査費を含めた費用は県が負担するなどを確認した。
 県レベルで景観アドバイザーを設置しているのは11道県あるが、各県ともアド
バイザーの仕事や人数はまちまち。相談内容も個人の資質と経験がものをいう
そうだ。群馬県都市計画課は「実際に相談を受ける中で試行錯誤があるだろう。
実績をつくって、多くの分野に対応できるよう、人数を増やしていきたい」としてい
る。

○勉強会型
 京都のまちづくりを考える小さな勉強会に「京都南北一体化研究会」がある。
学者や都市計画の専門家ら13人がメンバーで、代表は上田篤・京都精華大学
教授。JR京都駅の改築をきっかけに、市域を南北に分断している駅舎と周辺の
東海道線を高架化し、南部での新しいまちづくりを進めよう、という共通の思いで
集まった。
 駅の南側は、北川の繁華街とは対照的に、農地の間に倉庫などが点在する殺
風景な空間が広がっている。
 研究会の幹事役でシンクタンク「シィー・ディー・アイ」代表取締役疋田正博さん
は「新駅ビルの問題点は高さよりも、むしろ470メートルという長大な東西の幅
にある。このまま改築計画が進めば、京都のど真ん中に巨大な壁が出現し、↓

都市の分断状況はますます固定化されてしまう」と訴える。
 京都駅周辺の鉄道の効果化は、戦前からの市民の悲願だった。しかし、今回、
駅の改築計画にあたって、肝心の高架化が議論された形跡は見当たらない。 
新駅整備の調査、研究を進めるため、1989年夏、市や府、JR西日本、建設省
などが参加して「京都駅改築にかかわる整備調査研究会」が作られた。メンバー
だった西川幸治・京大工学部教授は「南北問題解決の重要性を指摘したが結局
取り上げられなかった」と振り返る
 ここ数年の景観論争を受けて、田辺朋之市長は1991年1月、「北部保存、南
部開発」のまちづくり試案を発表した。その後まもなく、まちづくり審議会を設け、
南部を「都市機能集積地域」とする答申を得て、新しいまちづくりに踏み出そうと
している。
 そのまちづくり審議会でも「京都駅の改築計画そのものが検討の対象外とされ
たため、高架化の話は出なかった」(同審議会景観専門委員長だった加藤五郎・
元市建設局技術長)。
 高架化の経費はJRの試算で二千億円以上。小山選一・市都市計画局理事は
「市単独では無理」とあきらめ気味だ。連続立体交差化事業として国に認められ
れば、約五割の補助金が出る。しかし、東海道線は京都駅付近を除けば線路と
道路の立体化が図られており、国の連続立体交差化事業の基準に合致しないと
いうのが市の言い分だ。
 小山理事は「十分とはいえないまでも、南北をつなぐ道路は何本もある。南部
にとっては、駅の高架化よりも、区画整理など地域内部での基盤整備のほうが
重要だ」という。だが、市の南北を結ぶ主要道路のほとんどは線路との交差部分
で幅が極端に狭くなっており、最も広い堀川通りや大宮通でも片側は二車線だ。
 JR姫路駅や東舞鶴駅などの高架化事業にかかわってきた都市総合研究所
(本社・宇治市)の吉田隆一・代表取締役は「百五十万都市としてはあまりにもお
粗末。高架化の取り組みは政令指定都市で、京都が一番遅れているのでは」と
指摘する。連続立体交差化事業の国の許可についても「規制の効果は市の量
休暇に伴う改修や、適切な都市計画道路の設定を絡ませるなど、いくらでも工夫
できるはず。ようはやる気の問題だ」。
 「高架化にとって駅ビルの改築は千載一遇のチャンス」(加藤さん)だった。南
部開発をまちづくりの柱にすえながら、そのチャンスを活かしきれない行政のちぐ
はぐ振りに、リーダーシップの欠如を見る専門家は少なくない。西川教授は「東
京への遷都という厳しい状況の中で、疏水を開くなど、新しいまちづくりを展開し
た明治の京都の先駆けの精神はどこへ行ってしまったのか」と嘆く。 一体化研
究会は近く、高架化の具体的なプランなどの提言を本にまとめる。 →
























「幸い駅ビルの改築工事は着工が大幅に遅れている。高架化の可能性はまだ
残されている」と疋田さん。
 駅ビルの巨大な壁に道を通すためには、まず行政という厚い壁に風穴を開ける
必要がありそうだ。

○消極関与型〜買収行政(問題があればとにかく買収)
 「運動は成功した。だが、土地の買取によって開発を食い止める市のやり方
は、バブル経済がはじけ、処分に困った土地を抱える業者を救うことにもなりか
ねない。手放しでは喜べない」
 旧制三高寮歌「紅萌ゆる(もゆる)」で知られる左京区の吉田山。北斜面でのマ
ンション建設計画を中止に追い込んだ「吉田山の環境を守る会」の大塚正三会
長(57)は、複雑な表情で運動を振り返る。

・次々マンション計画
 北斜面は静かな住宅街。東側山ろくにも、大正末から昭和初期にかけて建て
られた仕舞屋づくり(しもたやづくり)の高級借家が並ぶ。
 不動産業者による底地買いは、バブル全盛期の1889年、東側から始まった。
山林を含む約1.7ヘクタールにマンションなどを建設する計画だった。翌年には、
北側斜面で別の不動産業者によるマンション計画が浮上。住民らは開発の波に
振り回された。
 一帯は開発可能な市街化区域。市は「適切な計画ならば認めざるを得ない」と
してきたが、市議会で保全を求める住民からの請願が全会一致で採択されたた
め、昨年末、北側斜面を約七億円で買収した。
 すると今度は東側の業者も土地の買取を求めてきた。市は「買取はあくまでも
特例。東側は緑地保全地区指定後に検討する」とはねつけた。これにたいし、業
者側はあくまでも買取を求める姿勢を崩していない。

・保存地区を大幅拡大
 都市緑地保全法に基づく緑地保全地区は、古都保存法による歴史的風土特
別保存地区とともに開発が厳しく制限されている。その一方で、開発申請が不許
可になった場合、地権者は自治体に対して土地の買取を請求することができる。
(同法8条第1項)
 現在、京都市内の緑地保全地区は約12ヘクタール、歴史的風土特別保存地
区は約1470ヘクタールある。市はまちづくり審議会の答申に沿って、近くこれら
の地区を大幅に拡大する方針だ。候補地には吉田山全域約15ヘクタール ↓

のほか、岩倉盆地(左京区)など数ヶ所が上がっている。
 だが、地区拡大に伴い、地権者からの買取請求が急増することは間違いない。
 これまで歴史的風土特別保存地区内で市が買い取った面積は約177ヘクター
ルと全国一。緑地保全地区でも約3300平方メートル、2億円分に達している。現
在、買取請求が出ている土地は計約20件、40億円分。市の買収予算は年間4億
円程度に過ぎず、とても追いつかないのが実情だ。
 京都と同様に景観問題を抱える奈良県では、1980年に明日香村全域(約2404
ヘクタール)が明日香村特別措置法による保存地区に指定され、一時は百億円
を超える買取請求が出た。

・「行政の努力に限界」
 東川敏春・市都市景観部長は「行政の努力にも限界がある。京都の景観は国
民的な財産だ、という市民の理解と協力がなければ」と強調する。
 しかし、「行政の努力」に疑問を抱かせる例も相次いでいる。
 二十年ほど前から問題化していた大文字山山ろくでの違法開発では、市が2年
前、ようやく原状回復の行政代執行に乗り出した。が、約6億円の費用は回収の
めどが立たないままだ。3年前に制定したゴルフ場建設予定地を約48億円で買
収し、改めて要綱を見直す羽目に陥った。
 吉田山については、市民から「都心部の貴重な緑地空間なのに、これまで開発
可能な地域とされてきたこと自体おかしい」との声も出ている。
 吉田山、大文字山山ろく、ボンボン山。この三つの開発問題で市が支払った経
費は60億円以上。人口1万人規模の町の年間予算を優に上回る額だ。景観の保
全と台所の苦しさの間で行政のジレンマは続く。

・景観保全に計画性を
 文化財建造物保存技術協会理事長の大田博太郎・東大名誉教授は「公共性と
いう観点から、京都では開発にある程度の制限を受けるのはやむ終えないという
ことを地権者は理解しなければならない。そのためにも、市は市民の信頼を裏切
らないような計画性のある景観保全の施策を進めるべきだ」と話している。

○参加拒否型
 「健康都市に高速道路はいらない」。2月5日、京都高速道路計画を審議する京
都府都市計画地方審議会の会場となった左京区の松ヶ崎公館。玄関前で約50
人の住民らがシュプレヒコールをあげる中、委員たちは無言でその前を足早にと
おり、建物の中へ消えていった。 →
























・行政への不信感続く
 そのわずか2時間半後、すでに決定済みの新十条通りを含め、5路線19.9キロ
全てが都市計画決定された。同審議会としては過去最高の4795件、14322人か
らの反対意見書も審議を左右する力にはなりえなかった。
 京都市広域幹線道路室は「都市計画法の手続に加え、素案を公開し、住民説
明会で意見を聞いて原案を作成するなど可能な限り住民参加を保障した」と強調
する。地元説明会も素案段階で41回、原案段階で10回。都市計画として確かに
異例の多さだった。にもかかわらず、行政に対する住民の不信感は、今な膨らみ
続けている。

・紛糾した住民説明会
 「新十条通について住民に説明をしたい」。市都市計画局の職員が鳥羽街道団
地管理組合理事長だった松田嘉元さん(50)を突然たずねてきたのは1987年1月
8日だった。「新十条通が団地の地下をくぐる。トンネルが団地の重さに耐えられ
ないので団地を取り壊したい」というのだ。
 「これだけ技術が進んでいるのに他に方法はないのか。この団地は業者でなく
市住宅供給公社が分譲したものだ。道路になることはわからなかったのか」。二
回の住民説明会は紛糾した。松田さんらは行政の計画性のなさにあきれ怒っ
た。市、府、その都市計画審議会へと矢継ぎ早に質問書や抗議書などを送った
が満足な回答は得られなかった。都計審の傍聴を強く要望したが、拒否された。
 「家を奪われるのです。せめて都計審でどんな議論がなされたかだけでも聞き
たかった」と横山昌弘・同組合新十条対策副委員長(65)は話す。
 一方、マンションの西側わずか50メートル先に油小路線が建設される伏見区の
ハイム伏見。住民達は「説明会の対象世帯は当初、道路の中心から50メートル
の範囲だけだった」「説明会を途中で打ち切ろうとするし、三回の約束が二回にな
った」「最後は『ご理解を』と逃げる。納得いく説明はなかった」などと口々に不満
を訴える。
 住民は住環境委員会をつくり額集会を重ねた。専門家の話も聞き、兵庫県の国
道43号も調査、実際にハイム伏見で大気や騒音を測定し、市の環境アセスメント
への疑問を都計審に提出してきた。市井信彦・同委員長(38)は「都計審は専門
家の集まりだからきちんとしたデータを集めれば意見は通ると思っていたが・・・。
これでは、初めから結論は決まっていたようなものではないか」と憤る。

・情報の公開を訴える
 京都市のまちづくり審議会は一昨年11月の第一次答申で、まちづくりへの ↓
まだまだ続きます。・・・今里先生は地元の福岡市東区箱崎で、まちづくり実践してあります。箱崎公会堂やテアトル箱崎や商店街活性化や田舎との交流などなど・・・。
市民参加を市に求めた。しかし、その具体的な方法はまだ見えてこない。
 「歴史都市京都の保全・再生のために」などの著書がある飯田昭弁護士は「わ
が国の都市計画法は内容的にも京都のような歴史都市の保全が考慮されてい
ないなど問題が多いが、それ以上に、住民参加が保障されておらず、民主的コン
トロールが及ばないなど手続き的欠陥が多い。まちづくりが、そこに住む市民の
ためのものなら、住民に情報を公開し、住民とともに考えていく姿勢を示すべき
だ」と訴えている。

○応援団型
 静かな白川の流れに沿って、百年以上の歴史を持つお茶屋や飲食店が立ち並
ぶ東山区の祇園新橋。テナントビルが密集した都心部の賑わいとは対照的に、
通りに面した木造の町家には瓦葺の屋根が連なり、窓にはすだれが揺れる。
 新橋通沿いで料理屋を経営する主人(58)は12年前、川端通から引っ越してき
た。「ここの規制が、こんなに厳しいとは思わなかった」とため息をつく。

・補助も焼け石に水
 建物の修理や改築などが厳しく規制されている伝統的建造物群保存地区(伝
建地区)。京都市内では現在、祇園新橋をはじめ、産寧坂、嵯峨鳥居本、上賀茂
と、全国の市町村の中では最も多い4地区、計約12ヘクタールが指定されてい
る。
 当初は古い御茶屋を、家族も同居できる三階建てに改築するつもりだった。だ
が、市の許可が下りず、屋根や内装だけの改築にとどまった。工事費は約2500
万円。うち、市からの補助はわずか150万円だった。「大きい看板はだめ、派手な
色は使うなと、市は厳しく指導してくる。町並み保全に反対ではないが、それなり
の補助がなければやっていけない」とこの主人は話す。
 伝建地区での伝統様式の建物は外観の修理・復旧、改築などは全て300万円
を限度に市が費用を補助している。だが、改築は材料費などが割高で、高いもの
では億単位の金がかかる。補助申請は毎年20〜30件あり、予算内では対応しき
れず、雨漏りなど急を要する保全は所有者が全額負担するケースもあるという。
市は今年度中に限度額や補助率をアップさせる方針だが、住民からは、「焼け石
に水」との声も出ている。

・地区指定が生活守る
 一方で、「祇園新橋を守る会」の谷口萬次会長(49)は「伝建地区指定が →
























なければ、ビル建設で住民が追い出され、町の歴史は途絶えていただろう」と話
す。
 市の調査では、祇園新橋の大部分を占める元吉町では、1975年の60世帯161
人が、90年には35世帯75人に。これに対し、町の一画だけが伝統地区に指定さ
れている清元町では、バブル経済期に次々と雑居ビルなどが立ち並び、350世
帯約1000人が、30世帯57人に激減した。ある意味で地区指定が住民の生活を
守る盾になったともいえる。
 さらに、産寧坂や嵯峨鳥居本は今日と観光に欠かせないコース。産寧坂の「東
山観光散策道路を守る会」の杉谷博康さんは「町並みを守ることは、経済にも十
分効果がある」と力説する。

・5年ぶり5ヵ所目に
 古い町並みで暮らす住民の間では、保全への気運が徐々に高まりつつある。
 東山区の石塀小路地区。3年前、6階建てのマンションが建設され始めたことを
きっかけに、住民でつくる「石塀会」を中心に伝建地区指定に向けて運動を始め
た。今年度、5年ぶり5ヵ所目の地区として指定される見通しとなった。同会の長
谷川貞一会長は「反対する人もいたが、愛着ある町並みを守ることは暮らしを守
ることだ、という認識が広まった」という。
 町並み保全の動きは、バブル時代の開発ラッシュを経て、一般の住宅地などで
も広がっている。まちづくり憲章や宣言をしている町は23ヵ所。建築協定は業者
などの「一人協定」を含め36ヵ所。住民の合意で建築物を規制する地区計画も1
5地区にのぼる。

・市も運動応援の姿勢
 市側も、こうして住民らの運動を応援する姿勢を示し始めている。地区計画の策
定を予定している地域に、コンサルタントを派遣する制度を昨年12月からスタート
させた。「優良再開発建築物整備促進事業」にも、1991年夏から景観形成型を
取り入れ、設計や解体の費用などを補助している。
 「住環境を守る・京のまちづくり連絡会」代表の木村万平さんは「まちづくりは住
民が先導し、行政が適切にフォローするのが理想だ。市もここに来てようやく、
『住民運動=住民エゴ』という固定観念を改めつつあるのでは」という。
 「祇園新橋を守る会」の谷口会長はしみじみと語る。「伝建指定は外観を守るに
過ぎない。私たちの根底には、京都の御茶屋を生んだこの街に対する愛着と誇り
がある。そんな思いが、この地域での暮らしそのものを守り、後世に伝えていくの
だ」 ↓

○後見から協調へ:国の方向転換(地方との関係改善へ)
 政府・行政の分野では、まちづくりが総合性と調整力を最も要求される。数多い
部門を横に結びつけ、持てるエネルギーを総動員しなければならない。住民運動
も高まった。まちづくり新時代に合わせて、国も方向転換を図りつつあるように見
える。
 竹下政権の「ふるさと創生一億円」。政権自体は泥にまみれて自滅したが、ふ
るさと政策は地方政治に大きな足跡を残した。

・後見的立場から撤退
 「一律一億円」のつかみ金を、市町村の規模にかかわらず配分したこと。その
使い道をめぐって、市町村が住民の声を真剣に聞いたこと。その意義は大きい。
国が市町村の後見的立場から撤退した、と印象付けたことは、さらに重要だ。
 社会基盤整備は、下水道を除けば、各市町村間にそれほど格差が見られない
水準に達した。あとは、地域ごとにどんな開発や再生を行うか、地方自治体よ、
頑張れ・・・ふるさと政策はそう呼びかけた。「国の知恵は尽きた。市町村が自分
で考えてくれ」。そう宣言したと言ったほうがいいかもしれない。
 中央省庁の姿勢の変化は、すでに各方面に現れている。例えば、1992年の第
8次治水事業5カ年計画で大きく方向転換した河川行政。治水、利水という過去
の二本柱に、「うるおいのある美しい水系の創造」が加えられた。良好な水辺空
間、多自然型河川、環境、美化・・・・。

・まちに顔向けた事業
 かつては治水のために、河川と町をコンクリート壁や消波ブロックで遮断した。
だが今、市町村も住民も、それを許さない。
 この計画策定時の河川計画課長・市原四郎氏(現東北地建局長)は「まちに顔
を向けたのです。これからは、まちづくりと一体になった事業でないと、納得しても
らえません」と語った。
 高規格堤防と呼ばれる大都市型堤防づくりが盛んになったのもその一例だ。堤
防幅を高さの30倍にする。越水しても破堤しないという治水目的に加え、周辺の
住宅や道路など都市施設と接合して開発するところに特徴がある。
 大阪市内を流れる淀川の両岸で工事が進む。空から見ると、築堤と都市開発
が切り離された従来型の箇所と、高規格型の箇所とが判然とする。「淀川は大阪
市にとってかけがえのないスペース。とことん市民向けに」と近畿地建の山本繁
太郎総務部長。 →
























 運輸省の航空整備事業。昨年度の予算編成時に「空港を利活用した地域振興
方策」を内部検討した。当時の航空局総務課長・荒井正吾氏(現文書課長)は
「かつては空港の配置も周辺施設も国の判断で決まった。今は、地域づくりの一
環として計画する時代です」と話す。

・依然進まぬ権限移譲
 国と地方の関係が改善の方向にあるのは確かなようだ。しかし、権限そのもの
は依然として中央に留保されたままである。
 東京都町田市の大下勝正市長は著書「町田市が変わった」の中で、駅前の再
開発・乱開発抑制、福祉のまちづくりなど多くの局面で、法律と条例がせめぎ合
う様子を生々しく描いている。
 一昨年末の都市計画法改正は四半世紀ぶりの大幅なものだったが、自治体へ
の大胆な権限委譲を求めた対案は退けた。まちづくりのパイロットと自賛する地
方分権特例法も、法律上の権限委譲は受け付けなかった。知事に決定権を移し
たはずの地方拠点都市整備法も、6省庁の枠に閉じ込める構造は変わらない。
(編集委員・川島正英)

○行政による条例主導型
 最近の地方分権への高まりを示す一つの象徴は、府県や市町村の条例制定ラ
ッシュである。まちづくりの分野で、特に目立つ。

・創意こらし条例続々
 三重県名張市の「快適環境条例」、京都府園部町の「生活を見直し町を美しく
する条例」、愛媛県久万町「緑のふるさと環境条例」、大分県湯布院町「潤いの
あるまちづくり条例」、神奈川県真鶴町のまちづくり条例=「美の基準」・・・・・。憲
章と呼んだほうが相応しい名称の条例が、続々と登場した。
 背景は、いろいろ考えられる。地域の個性・特性にかかわる分野で総合行政が
必要になったこと。行政側が能力をつけ、住民にも意欲が出てきたこと、など。過
去の要綱行政が限界に来たこともあげられよう。
 「地方の時代」を提唱した長洲一二氏が知事を勤める神奈川県。県はもちろん
横浜、川崎両市に先進的な条例が多いが、他の市町も政治を前面に出した条例
づくりで注目される。最近では城山町が、初めて自動車の野積み規制を盛り込ん
だ「総合環境保全条例」を設けた。
 兵庫県、「福祉のまちづくり条例」が関心を集めたほか、淡路島だけを ↓

対象にした乱開発規制の条例、屋外広告物条例の大幅改正、暴騒音防止条例
など、矢継ぎ早である。「中央集権制限法」を県議会で提唱した貝原俊民知事ら
しい発想がうかがえる。
 最近の条例ラッシュでは、景観の保全と廃棄物の処理についてのものが圧倒
的に多い。4月に施行された愛知県犬山市の「都市景観条例」、国宝犬山城の眺
望を損ないそうな18階建てビルの建設計画が出て、市も市民も景観行政の弱体
を知った。自分達の憲章を持とう、都市景観市民協定も、との思いを、七章四十
一条にこめた。

・市民思い入れを形に
 景観についての条例では、市民の思い入れを打ち出したものが目を引く、静岡
県掛川市の「生涯学習まちづくり土地条例」、兵庫県枕崎市「都市美形成条例」
など。東京都新宿区の「景観まちづくり条例」は、事業者との事前協議、住民協
定の尊重で乱開発の規制を狙う。
 岡山県倉敷市は伝統的構造物群保存築の“背景”を、静岡県熱海市は“傾斜
面”を対象にした。古くは仙台市が“広瀬川”の清流を対象として保全条例をも
つ。市街地の空き地の景観と環境を対象としたものも、千葉県習志野市や愛知
県豊田市大阪府松原市など、大都市郊外で目に付く。
 岡山県で美星町の「美しい星空を守る光害防止条例」、加茂川町の“環境保安
官”として市民11人を登場させた「美しいふるさと環境保全条例」も話題を呼ん
だ。
一方、廃棄物条例の新しい傾向は、空き缶やタバコのポイ捨て禁止だ。和歌山
市が県庁所在地では初めて、罰則つきのポイ捨て禁止を条例化して注目され
た。福岡県では北野町が「町の環境をよくする条例」を制定、福岡市などが続い
た。

・厳しい規制、訴訟にも
 これら、“まちづくり憲章”は、憲法が保障している自治立法制定権を、時代の
要請に応じて思い切って実体化し始めた、とも言える。
 問題点はある。厳しい規制や制裁がトラブルを起こしたり、訴訟になったり、新
規建造物だけを規制した旧来のものと均衡を欠く、立法に不慣れで法制技術に
疑問点がある、などなど。国との関係をうまく整理できていないものも少なくない。
 にもかかわらず、まちづくりの分野では、法律を補い、あるいは対象を広げなが
ら、今後さらに新しい憲章に進む例は増えるに違いない。 →
























○参加→協働型
 まちづくり政治が、他の分野と異なる点は「住民とともに」でなければ進展しな
いことだろう。住民参加の高まりは、まちづくりの進展と重なり合う。今は、陳情と
か請願や審議会・公聴会で意見を反映する段階から、住民と自治体の“協働”へ
と進んできた段階といえる。

・デザイン・コンペ次々
 協働への先行例は、東京都世田谷区に見られる。「まちづくり推進課」を十年前
に発足させた。八頭司達郎企画部参事は「23区で初めての参加型まちづくり、修
復型の市街地再整備を専門とする課だった」という。
 北沢、太子堂などの「地区まちづくり協議会」は他都市のモデルになった。「区
民相手の行政で、何よりも仕事、考え方に広い視野を持てるようになって感謝し
ている」と八頭司氏。
 1988年の「まちづくりリレーイベント」。一年間を月間テーマで繋ぎ、多摩川を考
える、やさしい町など、区の全ての部課を動員し、区民が積極的にまちづくりと取
り組む材料を提供した。
 その一つ、清掃工場の煙突のデザイン・コンペ、百メートルの煙突が改築期を
迎えた機に、航空安全の基準通りの赤と白のおなじみ模様を変えた。美術館と
公園に近接した風景に似合ったものに。参加作品は、小学生が画用紙を丸めて
作ったものから専門家の模型まで千点を超えた。
 また公衆トイレのデザイン公募、公園に置くベンチを父と子で作る工作教室、都
市計画百年を考えるイベントなども行った。

・住民側が規範設ける。
 中野区も実験は数多い。最新は「環境共生都市」構想。駅近くの警察大学跡地
を中心に、区庁舎を改築したタウンホールや防災広場、健康センター、特別養護
老人ホーム、福祉住宅、また都市型清掃工場、区民斎場も配慮する。
 他地区では敬遠されがちな施設も、むしろ区の顔として整備する。区民の提案
を受けて、というが、意見交換会が注目される。
 埼玉県川越市。蔵づくりの商店街を中核に町並み保存を実行していく住民団体
「蔵の会」は有名。八月に第十六回全国町並みゼミを開く。
 会では「巻き班」の申し合わせを設け、建物の新改築をチェックし、デザイン部
会で環境の調整に勤め、いいデザインを表彰したり、市の支援を求めて、電柱・
電線の地球化も進めてきた。 ↓
あとちょっと、しっかり読もう!
 財団設立という当初の目標は動きを見せないが、努力の買いあってか、5月の
連休も各地からの客でにぎわい、用意した団子が売り切れとなる満員御礼の盛
況だった。
 大企業と行政の協力例では東京・日比谷のビル街で結ばれた内幸町一丁目
建築協定。帝国ホテル、大和生命、日比谷電々、第一勧銀の高層ビル群が、改
築時に道路から後退するセットバック方式を採り、小公園や植樹地を生み出す約
束だ。

・住民意識など課題も
 商店街のセットバック、また「考える会」「守る会」「進める会」など住民グループ
が協働に向かう例は全国いたるところで見受けるようになった。が、旧態然だった
り、形式的だったりの例も少なくない。自治体が住民に不信感を持つとか、過保
護になるとかの例も多い。
 中でも、まちづくりに、住民が主導する意識をもてるかどうか、有効な手法を乱
せるかどうか・・・大きな問題だろう。(編集委員・川島正英)

○行政触発型
 水戸市主催の「女性大学」の修了生たちが、勉強の成果をまちづくりに活かし
たいと「水戸女性フォーラム」(関内清子代表)を結成し、22日、水戸市中央一丁
目の市民会館で発会式があった。今後、学習会や研修会を開きながら、一般市
民を対象に町の観察会やシンポジウムを企画したり、情報誌を発行したりする予
定という。
 「女性大学」は、水戸市文化室女性行政係りの企画で昨年九月から半年に渡
ってはじめて開講された。行政の仕組み山のあり方などについて、市長を初め関
係化の幹部から講義を受けた。講座終了後、「このまま終わらせたくない。女性
の目からまちづくりを考えてみよう」と、自分達で「大学院」を開校することになっ
た。
 発会式には男性を含む約30人のメンバーと江橋勇・市長室長らが出席、関内
代表が「水戸の町が大きく変わろうとしているときに、市民としてもう一度自分達
の町を見直してみたい」と挨拶した。
 続いて都市プランナー高野賢さんがまちづくりについて話しをし、メンバーはメモ
を取りながら熱心に耳を傾けていた。
 市文化室女性行政係りでは、「女性の目から見て住みやすい町は、お年寄り
や障害者といった弱者にとっても住みやすいはず。女性が行政に参画 →
























するきっかけになれば」と期待している。

○自治体と住民との協働型、さらに住民主導型
 自治体と住民との協働型、さらに住民主導型も目に付くようになった。中でも緑
の保全から始めたものが多い。オホーツクの村(北海道網走支庁小清水町)、見
沼田んぼランドトラスト(埼玉県川口市)、柿田川みどりのトラスト(静岡県市水
町)、天神崎の自然を大切にする会(和歌山県田辺市)などだ。
 緑保全は、英国のナショナルトラストがモデルだと見られる。“自然をそのまま”
“凍結保存”の考えが強い。町並み保存運動にも、そうした傾向が見られる。
 一方、生活する場としての町を開発、再生する手法がある。あだちまちづくりトラ
スト(東京都足立区)とか奈良まちづくりセンター(奈良市)などがその例だ。
 英国のシビックトラスト、地域開発トラスト、グランドワークトラストなどの活動を
参考にしているのかもしれない。だが、ナショナルトラストの場合とちがって、むし
ろ類型的にとらえることは困難である。

・英国では失業率半減
 英国のシビックトラスト活動の一つに西ヨークシャーのカルダーディル地域の再
生がある。繊維産業で栄えた地域だったが、1980年代に失業者が増え、衰退の
危機に。議会が「地域遺産活用の十年」を宣言、プロジェクトチームが設立され
た。中心街ハリファクトチームが設立された。中心街ハリファクスのビクトリア朝時
代の建造物群を化粧直しするなど地域の遺産を市場開拓の道具に役立てた。
 成功の最大の鍵は、自治体、企業、地域社会のパートナーシップにあった。チ
ャールズ皇太子の関心をひく幸運にも恵まれた。4年間に失業率が半減した。
 日本型はかなり様相が違う。自治体と住民が協働の形を取り、企業も加わって
財政的に支え、学者・専門家が知恵を提供する・・・・そんなイメージに合うもの
を、ひっくるめて「ふるさとトラスト」と呼んでおきたい。
 必要な条件は、凍結ではなく再生・活用を狙うこと。地域の誇りとか存在感をつ
くり出す連帯意識が育つこと。住民のボランティア、できれば住民主導が望まし
いこと。何よりまちづくり総合行政を狙う自治体が一方の主役であることだ。

・「トラストのすすめ」
 もちろん国のまちづくり支援の仕組みを脇役として利用するのは差し支えない。
たとえば、ふるさと創生政策で登場した地方交付税の割り増しや特別な地方債
で支援する「地域づくり推進事業」、無利子の融資をアレンジする ↓

「ふるさと財団」、広域的な基金づくりのための「ふるさと市町村圏」などなど。
 かねてから「ふるさとトラスト」と、その活用法について提唱してきた栃木県総務
部長の山下茂氏が「地域づくりトラストの進め」を執筆、4月末に販売となった。
 英国留学の経験を持ち、トラスト研究の第一人者の山下氏が提唱する「ふるさ
とトラスト」とは・・・地域社会を豊かに保つ環境へとつくりかえるための自治体、
民間企業、住民のパートナーシップの仕掛け。英国での考え方や手法を参考に、
わが国の法制や地方自治制度になじむ組織を考えるべきだ、という。
 日本型の「ふるさとトラスト」は、一般にそう定義されるのだろう。とにかく画一的
であってはならない。地域ごとに、相応しい特性を持つまちづくり手法が続出して
くることを期待したい。

○住民おまかせ型
 政策を公募(世田谷区と都市整備公社)。これまでの住民参加を住民参加」
は、一歩進めて、内容を限定せずにまちづくりの企画を募り、ものによっては実現
まで住民が実践する「活動企画コンペ」を世田谷区と同都市整備公社が計画。6
月から募集する。住民一般を対象に広く政策を公募するのは、全国の自治体で
初の試みという。
 「これまで、特定の事業について区などが地域住民の意見を聴き、取り入れる
ケースがほとんどだった。「公園を造るが、どんなものにしたらよいか」など、行政
側が一定のワクをはめていた。
 世田谷区まちづくりについ的確を公募する。学識経験者らで作る審査委員会
(委員長=延藤安弘・熊本大教授)が企画の実現性、公益性などを見極めて、良
ければ区が助成するシステム。
 入選した住民は都市整備公社のまちづくりセンターと覚書を交わし、助成金(上
限120万円)を受ける。7月中旬から来年3月まで、8ヶ月間かけて企画を実現させ
る。センターは住民に助言したり、必要なら専門家を紹介し、区の関係部課との
連絡役を務めるなど側面から援助する。
 このほか、実現まで行かなくても「こんな街にしたい」というアイデア、提案も募
集、こちらにも調査のための助成金(上限80万円)を支出する。住民による街の
実情調査や研究会、勉強会の開催にも助成(上限20万円)する。 →
























● 「博多型もやいシステム」を求めて ●

 ここまでお話してきて、結論をどうしようかと思ったのですが、これは質疑応答
の中で皆さんと一緒に考えていきたいと思います。



※このあとの質疑応答の中では、一度下された都市計画決定の
 変更の可否、博多部局の創設、福岡市における博多部部四校
 区まちづくり協議会の位置づけ、地方分権を支える人材の問題、
 区や小学校区に市の権限を下ろす「内なる分権」の問題、京都
 のまちづくりとの比較などが論じられた。




1994.11.5
九州大学教授 今里滋














この文章に限らず、書込み間違いがありましたら、メールにてご指摘ください。

トップ 前へ 次へ

 竹下輝和(都市にどう生きるか)  本間義人(まちづくりの原点)

あいさつ文  竹沢尚一郎(地域・家族・コミュニティ)  岡道也(博多部の都市デザイン)